【国際税務】コロナ帰国者の給与に対する源泉徴収漏れ

2022年5月28日の朝日新聞デジタル記事に三菱電機での源泉徴収漏れに関する記事が掲載されていました。

【朝日新聞デジタル記事よりイメージ図を引用】

当該記事によると「同社は帰国した従業員が海外の業務を続けていたため、課税対象に当たらないと判断したとみられる。同局の税務調査で発覚し、約1億円4千万円を追徴課税された。」
「関係者によると、同社では新型コロナの感染症が広がりつつあった2020年春以降、アジアや欧州などの現地法人に出向していた従業員数百人が一時帰国した。帰国中も現地の会議にリモートワークで参加するなどして海外の業務に携わり、その間の給与は同社が支払っていたという。」

当該記事から察するに、現地法人への出向者に対して日本が負担していた格差補填、留守宅手当等に対して、一時帰国中の日本国内の労働については短期滞在者免税の要件を満たさないして課税されたものと思われます。

国税庁の「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」の問11-4に類似例が掲載されています。


問11-4 海外に出向していた従業員を一時帰国させた場合の取扱い〔令和2年10月23日追加〕

当社(内国法人)は、海外現地法人に従業員を出向(1年以上)させていましたが、今般の新型コロナウイルス感染症の世界的拡大に伴い、従業員を日本に一時帰国させており、現在、この従業員は、日本で海外現地法人の業務に従事しています。
この従業員には、出向先である海外現地法人からの給与のほか、現地との給与水準の調整等を踏まえ、当社から留守宅手当を支払っています。
このような一時帰国者については、租税条約の適用により所得税が課されない場合があると聞きましたが、当社がこの従業員に支払う留守宅手当について源泉徴収は必要でしょうか。また、この従業員は、日本で申告をする必要があるでしょうか。
なお、給与の支給形態は、帰国後も変更はなく、海外現地法人は、日本国内に支店等を有していません。

〇 居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいい(所得税法2条1項3号)、非居住者とは、居住者以外の個人をいいます(所得税法2条1項5号)。また、非居住者が日本国内において行う勤務に基因する給与は、国内源泉所得として所得税の課税対象となり(所得税法161条1項12号イ)、非居住者に対して国内において国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際に所得税(及び復興特別所得税)の源泉徴収をする必要があります(所得税法212条1項等)。

〇 一方で、所得税法において課税対象となる場合であっても、その給与所得者の居住地国と日本との間に租税条約等があり、非居住者である給与所得者が、その租税条約等において定める要件(以下の【短期滞在者免税の要件】)を満たす場合には、所定の手続を行うことで日本において所得税が免税となります。

 【短期滞在者免税の要件】
次の3つの要件を満たすこと。
①滞在期間が課税年度又は継続する12か月を通じて合計183日を超えないこと。
②報酬を支払う雇用者等は、勤務が行われた締約国の居住者でないこと。
③給与等の報酬が、役務提供地にある雇用者の支店その他の恒久的施設によって負担されないこと。
※ この要件は一般的なものであり、個々の租税条約等によってその要件が異なりますので、適用される租税条約等を確認する必要があります。

 【内国法人が支払う一時帰国している期間の留守宅手当について】
〇 非居住者である従業員が日本に一時帰国した場合であっても、この従業員は日本国内に住所等を有していないと認められるため、引き続き非居住者に該当します。また、この非居住者である従業員に対して貴社から支払われる一時帰国している期間の留守宅手当については、日本国内において行う勤務に基因する給与と認められるため、国内源泉所得として所得税の課税対象となります。

〇 その上で、貴社から支払われる一時帰国している期間の留守宅手当については、上記【短期滞在者免税の要件】の②の要件を満たしませんので、短期滞在者免税の適用はなく、非居住者に対する給与としてその支払の際に20.42%の税率により源泉徴収が必要となります(所得税法213条1項1号等)。
なお、この一時帰国している期間の留守宅手当は、源泉徴収のみで課税関係が終了する仕組みとなっています(所得税法164条2項2号)。

 【海外現地法人が支払う給与について】
〇 海外現地法人がこの非居住者である従業員に支払う一時帰国している期間の給与については、日本国内において行う勤務に基因するものと認められるため、国内源泉所得として所得税の課税対象となります。この給与については、国内において支払われるものではありませんので、給与の支払の際の源泉徴収は不要ですが、海外現地法人から国内源泉所得である給与の支払を受けたこの従業員は、その給与について、日本において確定申告書の提出及び納税が必要となります(所得税法172条1項、3項)。
ただし、この給与が、上記【短期滞在者免税の要件】を満たす場合には、所得税は課されないこととなります。


税理士 三木孝夫

PAGE TOP